浅沼信爾・小浜裕久著 勁草書房
2007年11月発行 本体2800円
開発経済学への招待というサブタイトルが付いているように、クズネッツ流の近代経済成長という概念を、今日の途上国の発展の分析に使ってみようというコンセプトで書かれた本です。200ページ余りの小さな本ですが、日本をはじめとして、多くの途上国の発展や政策がエピソード風にたくさん載せられていて、気軽に読めました。
「過去半世紀の記録を見ると、途上国で近代経済成長に成功してきたあるいは成功しつつある国の方が失敗例よりはるかに多いことが分かる」と述べられているように、かなりの楽観性が特徴の本書です。もちろん、サブサハラ・アフリカ諸国は例外とされています。でも門外漢として気になったのは、こういう風に途上国はうまくやっていると評価するのが現在の開発経済学の主流なのかとうことです。一昔前とはずいぶん風向きが違う印象です。
過去の歴史から見て、輸入代替工業化を目指した諸国の失敗と輸出主導工業化がもたらした東アジアの奇跡の対象性は明らかです。では、すべての国が輸出主導工業化を目指してうまくいくのかというと、著者はそれに対して懐疑的です。私は本書で初めて知ったのですが、重力理論というのがあるそうです。
2国間の貿易量はその2国のGDPに比例し2国間の距離(取引費用の代理変数)に反比例するというものです。輸出主導工業化が成功するには、近場に輸入を受け入れる大きな先進国市場が必要で、東アジアの場合にはアメリカと1980年代からは日本がその役割を果たしたことが、東アジアの奇跡の実現につながったというのです。逆に、サブサハラ・アフリカ諸国の近くにはそういった輸入を受け入れてくれる市場がないことが、停滞の一因と考えられるそうで、納得してしまいます。
サブサハラ・アフリカ諸国の停滞の原因として、ガバナンスの問題が重視されるようになっています。単に政府は無能なだけではなく、かえって国民を食い物にする有害な存在になっていると。これに対しては、「途上国の指導者あるいは指導層が自らのグループの利益を最大化するような経済運営を行っていて、国の指導者層自体が経済成長の阻害要因になっている場合がある。このような場合には、どのようなガバナンス改善の政策も有効ではないだろう」とのこと。つい先日、ジンバブエで大統領選挙があり、現職のムガベ大統領が勝利したとのことですが、ああいう事例を見るにつけ、同意してしまいます。
また、途上国だった頃の日本経済のガバナンスとして官業払い下げ事件を取り上げてあるのですが、「戦後の公共事業と与党の癒着の方が日本経済のガバナンスとして問題は大きいかもしれない」などと付け加えてあるのには同感です。年金や居酒屋タクシーの問題など、日本の政府には政治がらみ以外でも問題山積のようですし。
あと、本書の編集者に尋ねたいところですが、きちんと校正してるの?仮名漢字変換のミスだけでなく、國なんていう旧字体が使われていたり、文章中の「あいうえお」にあたるところに「はひふへほ」がつかわれているところがあったりなど。著者の略歴を見る限り、旧仮名遣いで書くような年齢ではないようなのですが、不思議です。
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