宮本又郎著 有斐閣
1988年6月発行 本体7900円
大阪米市場分析というサブタイトルがついている本です。箱入りグラシン紙カバーという典型的な20世紀の専門書スタイルの装丁なので、これまで手に取ったことがなかったのですが、シンポジウム 歴史のなかの物価が面白かったので、読んでみることにしました。
制度史的分析を扱った第一部では、大阪米市場の成立史、農村での集荷から海運による大阪への登米、蔵屋敷での入札から払い米・米切手の機能など取引の仕組みが説明されています。第二部は物価史的分析で、大阪米市場の卸売市場として米価の変動を平準化する機能の検討、先物市場である帳合米取引のヘッジ取引の有効性の検討、大阪をふくめた全国16カ所の米市場間の米価の連動性の検討などが扱われています。
この本の内容についてあれこれ評価するほどの能力は持ち合わせていませんが、目的・方法・述語の定義などきちんと説明しながら論じてくれている本で、非専門家にとっても読みやすく面白い専門書でした。きっと、この人の講義は学生にも分かりやすいものなのでしょう。
本筋に関わらない疑問を少々。江戸時代にも米の値段には品質の違いによる差がありました。餅米はもちろんのこと、うるち米にしても上米・中米・下米や赤米と分けて売られていたようです。こういった米の品質の違いと米切手との関連はどうだったのでしょう。
というのも、時代とともに、入札後に米切手を入手してもすぐに米を払い出ししない、米切手が転々と流通するようになったからです。本書にも「米切手の発行から蔵出しまでの間に相当の時間が経過するようになったため、米切手と特定の米(入札された米)との対応関係は失われ勝ちとなり島本氏が指摘しているように、米切手は倉荷証券的なものから商品切手的なものへと、性格を変えることとなった」とありますが、これだと見本をみて入札しても意味がないような。
もちろん、「損じ米、痛み米、濡れ米、虫入り米などについても入札売りが行われたが、これは本勘定外で、『見せ米』として公示した上」入札されたそうですので、米切手と引き替えに変質した米が渡されることはありません。でも、変色や虫食いなどのない米なら、品種品質関係なくどれも同じ単なる米として扱われたのかが気になります。
農民は変色や虫食いの無い良い米を選んで年貢米として納めていたという話はどこかで読んだことがあります。でも、味がいい米とか見栄えがいい米とか、そういった方面での良質な品種の米は求められていなかったんでしょうか。
ただ、「播州米が酒造米として適していた」と本書には記載があり、実際に加古川河口の高砂の地で売却された姫路藩米の入札には伊丹・西宮・灘の酒造業者が参加していたそうです。これは、高砂と伊丹・西宮・灘が距離的に近かったからというだけではなく、米の品質的に優れていたから選ばれたということですよね。それなら、やはり江戸時代にも優れた品種の米を求める需要があったということかな。
近世日本の経済市場 続き
近世日本の経済市場 続き2
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