2009年5月29日金曜日

稚魚


田中克・田川正朋・中山耕至著 京都大学出版会
2009年3月発行 本体3800円

生残と変態の生理生態学というサブタイトルのついている本書、本屋さんで手にとって面白そうだったので買いました。サカナについてはほとんど知識のない私なので、サブタイトルとはあまり関連しなさそうな面でも勉強になったことが多かったし、読みながら新たな疑問がわいてくる点もあったし、予想以上に面白い本でした。例えば、
  • 魚は卵から生まれたばかりの「卵黄仔魚」、外部栄養に依存し始めた「仔魚」、消化管・骨・鰭など魚としての基本構造ができあがった「稚魚」の段階を経て成魚へと成長していくこと。仔魚と成魚が似ているサカナもいますが、各段階ごとの移行を変態と呼ぶことができるほど大きな変化を伴う魚種がふつうなのだそうです。サカナは孵化直後から成魚になるまでにサイズが100倍以上になることが当たり前ですが、大きさごとに環境への最適な適応の仕方が異なるから、「変態」するのだろうということです。
  • 「発生初期の鰓の形成は、酸素の吸収よりも、塩類の調節を目的としている可能性があるとする総説も発表されている」という説明にも、ほーという感じです。サカナの体液の浸透圧は海水の三分の一くらいだそうで、鰓の表面に存在する塩類細胞が調節しています。仔魚のうちは酸素は体表からも吸収できるので、塩類調節の方が重要らしいのです
  • 魚類の未受精卵には甲状腺ホルモンや各種のステロイドホルモンが含まれていることがサケ科魚類をはじめとして多くの魚類で明らかにされているということも初めて知りました。発生や孵化後の成長に必要なホルモンを親が用意してくれているというわけですが、魚卵をたくさん食べてもヒトに影響が出るほどの量・濃度ではないのでしょうよね
  • 「初期の発育や成長には高度不飽和脂肪酸であるDHAやEPAが不可欠である」という記載にもびっくり。DHAやEPAは仔魚の脳の成長にも影響するそうで 自然の状態では餌生物から摂取しています。養殖の場合には餌にDHAやEPAを添加する必要があるのだとか。頭を良くする・脳を活性化するなどというセールストークで売られているサプリメントですが、サカナについてはエビデンスがあるわけですね。
  • 「魚は脊椎動物であるにもかかわらず、仔魚期には脊椎はなく、体軸に沿って頭部から尾部に延びる脊髄を支えるのは脊索である」とのことです。これにもなんとなくびっくり。脊椎動物は脊髄動物と呼ぶ方が正しいのかもと思ってしまいました。
  • また、一般的に川よりも海の方が生物生産性が高いのだと思っていたのですが、「亜熱帯や熱帯域では、海より川の生物生産性が高い」のだそうです。このため、亜寒帯・温帯のサケのようなサカナは海で成長するけれども、熱帯では海で生まれて川に移動して成長し、海に戻って産卵する種類のサカナが多いのだそうです。
  • サケの漁獲量が1970年代後半から増加しているのは、稚魚の放流が増えたからではなく、ベーリング海の環境収容力が増加したからなのだとか。アリューシャン低気圧で海水が擾乱されると海底の豊富な栄養塩が有光層に上昇してサケの餌を増やしてくれるのですが、1970年代以降アリューシャン低気圧の強さを示すアリューシャン低気圧指数が高値を続けていることが示されていました。
  • 北太平洋におけるサケの漁獲尾数がの1925年以降の経年変化のグラフが野生魚と孵化場魚に分けて載せられています。漁獲された成魚が野生の卵出身か孵化場出身かどうやったら分かるのか不思議。
  • 仔魚時代にはばらばらに生きていて、変態後に稚魚になってからは群れを形成して泳ぐようになる種類のサカナがいます。どうやって集まってくるのか、どうやってお互いを同じ種類と認識してできるのかが不思議。

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