2007年12月21日金曜日

経済物理学の発見

高安秀樹著  光文社新書  税込み788円  2004年9月発行

新書版で、全く知らない分野について解説している本だったが、とても刺激的だった。経済学といえば、価格は需要曲線と供給曲線の交点で決まると説明するところから始まるものと思っていたが、本書では以下のように述べられている。

「現実の世界で、需要と供給が均衡するメカニズムが働く理想的な市場に近いのは、為替や株式などの自由市場で、売りたい人と買いたい人は自由に値付けして価格を決めて、取引するところです。そこでは、需要(買いたい人)が多ければ価格が上がるし、供給(売りたい人)が多ければ価格が下がるという形で、価格が動くことによって、需要と供給がおおよそ釣り合う状態が保てます。しかし、だれもが経験的に知っているように、為替や株の市場価格は不安定であり、不規則な変動を止めることはありません。
従来の経済学のように『売買する人は全てを見通して合理的に考える』という仮定では、このような現実を説明できません。(中略)実際の市場の振る舞いを素直に受け入れて、常に価格が変動し、不安定だということをそのまま受け入れる考え方をした方が合理的ではないでしょうか」

言われてみればもっともな話だが、とても新鮮に感じられる指摘だ。物理学で用いられる相転移という考え方を導入して、自由市場での需給均衡状態というのは需要超過相と供給超過相の間の不安定な状態、つまり外国為替相場で価格が常に揺れ動くのはそうあってしかるべきものなのだ。

もちろん、この考え方が万能なわけではなく、「市場の研究に関連して、エコノフィジックスが特に力を発揮すべきところは、金融工学やマクロ経済学が苦手としているスケール領域の現象です。それは、10の3乗秒くらいのスケールの現象である暴騰・暴落・振動、そして、介入やニュースへの市場の反応などです」とうことで、10の4乗秒よりも長い日月年というタイムスケールで見れば伝統的な需要供給曲線による価格の決定がなりたっていると言えるのだろう。ここまでが、本書の白眉。

また本書では、フラクタル性を持つベキ分布についての解説もしている。 個人所得の分布がベキ分布であることは、これまでも経済学でも知られていて、パレート指数として用いられてきた。しかし、他にもベキ分布する統計量は沢山の種類があるそうで、市場価格の変位の統計性をはじめ、企業の所得の分布、CDの売り上げ分布、本の販売部数の分布、インターネットのサイトごとのヒット数の分布などを著者は挙げている。 ベキ分布する対象では平均値が限りなくゼロに近くなり、標準偏差は無限大になってしまうので、「ベキ分布にしたがう対象については、従来の平均や標準偏差に基づく対処方法とは異なる発想に基づくアプローチが必要」とのことだ。

その他、本書には著者の現実経済に対する提言も載せられている。これについては賛否両論あるところ。でも、面白い本だった。

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