2009年5月16日土曜日

最初の近代経済 感想の続き、日本に関連して

本書の中で直接日本について言及のあるのは東インド会社(VOC)に関する章です。同社はアジア産品購入の対価として輸出する貴金属の量を減らすためにアジア内交易で稼ぐことを企図し、その際にとても重要だったのが日本の存在だったそうです。本書によると
アジア内貿易において、日本は戦略上大きな役割を担った。VOCは、同国において物品と貴金属のやりとりをペルシアを大きく上回る規模で行っていた。東インド会社は日本においてアジア内貿易の利益を現金化した
とのことです。戦国末から江戸時代初期にかけての日本の貴金属輸出は大量だったわけですが、それはVOCの営業にも資していたわけですね。正徳新令などによる日本からの貴金属輸出量の激減がVOCに大きな影響を与えたことを本書は指摘しています。

ヨーロッパの中央貨物集散地であったアムステルダムは、大阪と比較してみたくなります。1859年の5港開港までの日本は日常生活物資の貿易を行っておらず、ウォーラーステイン流に言えばひとつの「世界経済」でした。そう考えると、ヨーロッパ並みに中央貨物集散地が一つ存在したことは当然でしょう。中央貨物集散地には倉庫のみならず為替・金融業者・先物を含めた商品取引所などが整備され、やがては資本が集積します。しかし当時はまだ投資すべき近代工業が存在しないので、内外の公債への投資や大名貸しや投機が行われる。そして、地方の経済レベルが向上してくると、アムステルダムや大阪を迂回した取引が増えて、実物経済的には地盤沈下する。こういった過程は両地とも同じなのではないでしょうか。

そして、18世紀オランダの「近代的衰退」について読んでいると、現在の日本とそっくりなような。
  • 人口が停滞している
  • 多額の対外投資を行っていて、資本収支が黒字になっている
  • 失業者が多数存在しているにも関わらず、分断的な労働市場のために日本の労働者の賃金は相対的に高い
  • 失業者が多いにも関わらず、介護業界のように慢性的な人手不足の業種がある
  • 対外貿易黒字による円高や、相対的な労働コストの高さから工業・製造業が苦境に陥っている
こうみてみると、著者がオランダを最初の近代経済と呼ぶのも、あながち牽強付会とばかりは言えないのかも。

2 件のコメント:

renqing さんのコメント...

 偶然こちらの記事を読ませて戴きました。プロの史家顔負けの読書量と読みに敬服致します。
 私が読みたい関連の本を悉く読まれているので、先行ブックレビューとして非常に助かっています。私めのblogにもお立ち寄り戴ければ幸甚。また、遊びに参ります。

somali さんのコメント...

コメントありがとうござまいます

「本に溺れたい」って、タイトルから刺激的ですね

ブックマークさせていただきました