2007年11月14日水曜日

成年後見制度

先日、成年後見制度の鑑定書を書く機会がありました。

成年後見制度とは,「精神上の障害により判断能力が不十分な者について,契約の締結等を代わって行う代理人など本人を援助する者を選任したり,本人が誤った判断に基づいて契約を締結した場合にそれを取り消すことができるようにすることなどにより,これらの者を保護する制度」です。

2000年に制度が改正される以前の成年後見制度では、禁治産と準禁治産の二つの類型が設けられていました。私も訪問診療をしていた患者さんのご家族がその方の禁治産を申請するというので、鑑定書を書いたことがありました。その患者さんはAlzheimer病がかなり進行していて、経管栄養を受け無動無言で褥瘡の既往もあり、だれが見ても判断能力が欠如していることが分かる症例です。そのときの経験から、成年後見制度を利用することになる方というのはかなり重度の精神上の障害を持つことが必要だなという印象を持っていました。

裁判所の成年後見制度のページからダウンロードできる鑑定書作成の手引きにも「成年後見制度は,認知症の高齢者,知的障害者,精神障害者等精神上の障害により判断能力が不十分な者を対象とします。すなわち,身体機能に障害があるため一人では十分に財産上の行為を行うことができなくても,判断能力は十分ある者は,対象者から除かれます」という注意書きがあります。

今回、鑑定書を書いたのは脳幹出血で顔面を含む両側の片麻痺・気切・胃瘻が、左眼のウインクと小さく首振りでyes-noを何とか意思表示できる方です。見当識障害はかなりあるのですが、簡単な計算などは可能です。こういう症例は、成年後見制度とは縁がないものと思っていました。

しかし、裁判所の調査官のお話ではそうではないそうです。確かに上記注意書きの中にも精神障害者”等”とありますし、「判断能力は十分ある者は対象から除かれます」ということですから、脳血管障害やその他の中枢神経疾患による器質性精神病で判断能力が低下していれば、この制度の対象になるのでしょう。

私が外来や訪問診療で担当している患者さんの中には、脳血管障害やその他の中枢神経疾患による器質性精神病で判断能力が低下している方がたくさんいます。今後は、この方たちにも成年後見制度の利用が増えてくるのかも知れません。

そういった方の年金を実際に金融機関に引き出しに行ったり、それを生活費や医療・介護料金として支払うのは介護者が大部分ですが、委任状を患者さんから受け取って代行しているわけではないし、またそもそも患者さんは委任状を書くこともできないわけです。金融機関での本人確認もこのところうるさくなってきていますから、キャッシュカードでお金を引き出すことはできても、それ以外の金融機関との取引は成年後見制度を利用しておかないと、そもそも本人確認の段階でアウトになってしまいそう。

また、高度障害と言うことで生命保険の保険金を受け取り、成年後見制度を利用しないで、本人だけではなく家族の生活費としても消費しているような場合には、業務上横領にあたるとの調査官のお話でした。

鑑定書を書くのはかなり面倒くさいのですが、医療機関でもこの制度の周知に協力しなければいけなくなってきているなという感想を持ちました。

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