2007年11月21日水曜日
ラテンアメリカ経済史
ビクター・バルマー=トーマス著 名古屋大学出版会 税込み6825円 2001年10月発行
小さくて分かりにくいかもですが、カバーの絵はLand of Coffeeという絵なんだそうで、なかなかしゃれてます。
「独立後のラテンアメリカの経済発展は、果たされない約束の物語である。豊富な天然資源を持ち、労働力に対する土地面積には恵まれ、植民地支配から脱しておよそ二世紀の間自由を享受したにもかかわらず、一つの国家も未だに先進国の仲間入りを果たしていない。 (中略) ラテンアメリカと先進国の生活水準の格差は、ラテンアメリカが発展途上地域の中では最も豊かであった十九世紀の初期以降、確実に増大している。」
上記のように、十八世紀までは第三世界の中でももっとも豊かな地域であり、北米と実質国民所得でも遜色ない経済実績を示していたラテンアメリカ。その後の経済不振の原因は何かという問題意識が本書の中心にあります。
「独立後のラテンアメリカの経済発展は、比較的容易に二つの異なる、しかし部分的に重複する局面に分けることができ、この二つの局面の後に、ちょうど始まったばかりの第三局面が続いている。第一局面は一次産品に基礎を置く、伝統的な輸出主導型成長に該当する。第一局面はゆっくりと開始したために、20世紀の最初の10年に頂点に達し、そして大恐慌と共に消滅した。第二局面は内向き成長の時期に該当する。この内向き成長は、大きな国では19世紀後半に始まった輸入代替工業化を基盤として、第二次大戦後の四半世紀に頂点に達した。非伝統的な輸出産品に基づく第三局面は、1960年代に始まり、1980年代の債務危機後に支配的となった。」
第一局面においては、ラテンアメリカ各国とも有力な一次産品を持っていたので、輸出主導型の成長にはとても有利なのだと私は思っていました。しかし、輸出に好適な一次産品を持っているというだけでは、必ずしも輸出主導型の成長が実現するとはいえないようです。
アルゼンチンのように、輸出一次産品生産の前方連関・後方連関によって輸出部門の成長が非輸出部門の成長につながる場合には、輸出主導型の高成長が第一次大戦前にみられました。しかし、非輸出部門の成長にあまり期待できない国の場合、先進国の成長率にあわせて成長してゆくためには、一次産品の輸出量が期待成長率よりもかなり速いペースで増加しなければなりません。
たしかに、第一次大戦前には先進国の経済成長率より速く一次産品の輸出量を増やすことのできた国もありました。しかし、それでも輸出だけに頼って、先進国並みの成長をもたらすには不十分だったのです。また、多くの国ではインフラストラクチャーなどの国内の供給上の問題から十分な早さで輸出量を増やすことができなかったのです。
第一次大戦後には硝石などの一次産品の代替品の出現や、アジア・アフリカのヨーロッパの植民地でゴム・砂糖などが生産されるようになりました。ラテンアメリカ各国は、バナナ・石油など新たな輸出品目への移行によって輸出量の確保・増加をはかりましたが、そのため却って1929年大恐慌の影響がより強く表れることになりました。その後、ラテンアメリカ各国で一次産品輸出価格の減少がみられ、また国ごとに程度は違うが輸出量の減少・交易条件の悪化も見られたことで、一次産品の輸出に頼らない経済成長の方策が求められ、第二の局面につながっていきます。
第二の局面、輸入代替工業化について、有名なプレビッシュ報告の影響もあって、一次産品輸出国が工業化を目指す際のとても望ましい政策なのだろうと私は思っていました。しかし実際には、工業化の進展で消費財の輸入量が減っても、さらに工業化を進めるためにはより一層高度で高価な資本財の輸入が必要になり、国際収支の改善をもたらさないばかりか、却って貿易収支の赤字を増やすことにもなり得ます。
しかも、プレビッシュの強いリーダーシップのもとでCEPAL
が輸入代替工業化をラテンアメリカ各国に対して推奨した時代は、「まさに世界経済と国際貿易が、最も長くかつ最も速い長期拡大の時期に乗り出そうとしていたとき」で、「このモデルには最悪のタイミングであった」とのことです。そう指摘されれば、なるほどそうですね。この辺の事情は、輸出主導型の成長を目指して成功した東アジア各国の実績と比較して、とても興味深いところです。
第三局面以降は、私の興味の範囲から外れるので、略。
本書はラテンアメリカ経済史と、地理的にも非常に広い地域を扱っています。当然、経済的なパフォーマンスの推移にはラテンアメリカ各国ごとに違ってきました。その原因として本書では、①商品の当たり外れ、②輸出主導型の成長、③経済政策の実施環境の三つをあげていて、この点の議論も説得的だと思いました。
① 商品の当たり外れについては、ラテンアメリカは広く地理的な条件の違いで輸出できる一次産品も異なっています。商品ごとに価格弾力性・国際競争の激しさや前方・後方連関をももたらす程度に差があります。硝石の輸出国と石油の輸出国とでは、19世紀から現在までのパフォーマンスに違いが出ることは非常に説得的です。
② 輸出品主導型の成長、各国の資本・労働力・国家という装置が効率的に機能しないと、輸出部門の成長を非輸出部門の成長につなげることができなくなってしまう。
③ 経済政策の実施環境、一貫した政策をとれたかどうか、またその政策(輸出主導型成長、輸入代替工業化など)が妥当だったかどうか。
本書に対する私の感想は、ラテンアメリカ全体と各国ごとの経済史の概観を学ぶのにとても有用な本で、おすすめです。
それにしても、名古屋大学出版会は経済史関係の面白いのをよく出版してくれるところですね。そう思って本棚をみてみると、名大出版会の本が14冊もありました。
ラテンアメリカ経済史 続き
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